近年、注文住宅の間取り提案でよく耳にするようになったのが「ヌック」です。ヌックとは、リビングや廊下などの一角に設ける小さな居場所スペースのことで、「完全な個室ではないけれど、少しこもれる場所」として注目されています。
在宅時間が増え、家の中で過ごす時間の質が重視されるようになった今、広さよりも居心地や使い勝手を重視した空間づくりの一つとして、ヌックは非常に相性の良い存在です。
注文住宅では、決まった間取りに当てはめるのではなく、家族の暮らし方に合わせて自由に設計できるため、ヌックのような「+αの居場所」を取り入れやすいという特長があります。そのため、最近では「必ず欲しい」「できれば取り入れたい」という要望も増えています。
ヌックとは何ですか?
ヌックは、注文住宅を検討する中で「何となく良さそう」と感じつつも、具体的なイメージが湧きにくい空間の一つです。この章では、ヌックの語源や本来の意味から、日本の住宅でどのように使われているのか、さらに他の空間との違いまでを整理し、ヌックの本質を明確にしていきます。
ヌックの語源と本来の意味
ヌック(nook)は英語で「隅」「奥まった小さな場所」を意味する言葉です。海外では、家の中の壁際や窓辺などに設けた、椅子やベンチを置ける程度のこぢんまりとした居場所を指す表現として使われてきました。
大きな部屋の一部でありながら、周囲から少し視線が外れ、落ち着いて過ごせる点が特徴です。
この「大きな空間の中にある、小さく守られた場所」という考え方が、日本の住宅づくりにも取り入れられ、「ヌック」という言葉が広く使われるようになりました。
日本の住宅で使われる「ヌック」の定義
日本の注文住宅におけるヌックは、明確な規格やサイズがあるわけではありません。一般的には、リビングや廊下、階段下などの一角に設ける小規模な居場所を指します。
壁で完全に仕切ることは少なく、腰壁や天井の高さ、床の段差などで「ゆるやかに区切る」ケースが多いのが特徴です。
用途も限定されておらず、読書、スマートフォン操作、子どもの遊び場、ちょっとした作業スペースなど、暮らしの中で自然に使われる場所として設計されます。
「何をする部屋」と決めすぎないことが、ヌックを長く活かすポイントでもあります。
個室・書斎・畳コーナーとの違い
ヌックは、個室や書斎、畳コーナーと混同されやすい空間ですが、役割や考え方は異なります。
個室や書斎は、壁と扉で明確に区切られ、用途も比較的はっきりしています。一方ヌックは、LDKとつながりを持ちながら使う空間であり、家族の気配を感じられる点が大きな違いです。
また、畳コーナーのように「一つの部屋」として成立するほどの広さを必要としないため、限られた延床面積でも取り入れやすいという利点があります。
ヌックは「部屋」ではなく、「居場所」。この認識を持つことで、間取りの中での役割が明確になり、無理のない形で取り入れることができます。
なぜ今、注文住宅でヌックが人気なのか
ヌックは決して新しい概念ではありませんが、近年の住宅づくりにおいて急速に注目度が高まっています。その背景には、住まいに求められる役割の変化と、注文住宅ならではの自由度の高さがあります。ここでは、なぜ「今」ヌックが選ばれているのかを具体的に見ていきます。
ライフスタイルの変化とヌック需要
在宅ワークの普及や、家で過ごす時間の増加により、住まいは「寝るための場所」から「生活の中心」へと役割が大きく変わりました。その結果、リビングだけでは満たせない多様な過ごし方が求められるようになっています。
ヌックは、仕事や勉強ほど集中はしないけれど、ソファとは違う場所で気分を変えたいときに最適な空間です。家族が同じ空間にいながら、それぞれが自分の時間を過ごせるため、現代のライフスタイルに非常に合致しています。
「こもれる空間」が求められる理由
広いLDKが主流となった一方で、「広いけれど落ち着かない」「居場所が定まらない」と感じる方も少なくありません。そこで注目されているのが、適度に囲まれた安心感のある空間です。
ヌックは、天井を低くしたり、壁で囲ったりすることで、視覚的・心理的に落ち着きを生み出します。完全に閉じないことで家族との距離感を保ちつつ、一人の時間を確保できる点が、多くの施主に支持されています。
SNSや施工事例で注目されている背景
Instagramや施工事例サイトなどで、ヌックのある住まいが数多く紹介されるようになったことも、人気を後押ししています。写真や動画で見るヌックは、暮らしのイメージが湧きやすく、「真似したい」と思わせる力があります。
また、実際に住んでいる人の「ここが一番落ち着く」「意外と毎日使っている」といった声が可視化されることで、ヌックが単なるデザイン要素ではなく、実用的な空間であることが広く認知されるようになりました。
ヌックのメリット
ヌックが多くの注文住宅で採用されている理由は、単に「おしゃれだから」ではありません。限られた床面積の中でも、暮らしの質を高める実用的なメリットが数多くあります。ここでは、ヌックを設けることで得られる代表的な利点を具体的に解説します。
家族それぞれの居場所をつくれる
ヌック最大のメリットは、家族が同じ空間にいながらも、それぞれが落ち着いて過ごせる「居場所」を確保できる点です。
リビングでテレビを見る人、ダイニングで食事の準備をする人、その横でヌックに座って読書をする人といったように、一つのLDKの中に複数の居場所が生まれます。
個室ほど閉じていないため、家族の気配を感じながら安心して過ごせるのも大きな魅力です。特に小さなお子さまがいる家庭では、親の目が届く範囲で子どもが遊んだり、宿題をしたりできる点が評価されています。
小さな面積で満足度を高められる
ヌックは1畳前後のスペースでも成立するため、広い延床面積がなくても取り入れやすい空間です。
新たに部屋を増やすほどではないものの、「少し落ち着ける場所が欲しい」という要望に応えられるため、コストと満足度のバランスが非常に良いのが特長です。
階段下や廊下の一角など、これまで有効活用しづらかったスペースをヌックとして活かすことで、間取り全体の無駄を減らすことにもつながります。
LDKとつながることで暮らしやすくなる
ヌックはLDKと隣接、もしくは一体化して設けられることが多く、生活動線を妨げにくい点もメリットです。
キッチンから目が届く場所に設ければ、家事をしながら子どもを見守ることができますし、リビング横にあれば、自然と家族が集まる空間になります。
完全に独立した部屋ではないからこそ、日常の中で使われやすく、結果的に「よく使う場所」になりやすいのがヌックの強みです。
ヌックのデメリットと注意点
ヌックは多くのメリットがある一方で、設計の仕方や考え方を誤ると「思ったより使わなかった」「邪魔に感じる」といった後悔につながることもあります。ここでは、注文住宅でヌックを取り入れる際に知っておきたいデメリットと注意点を整理します。
使われなくなるケースと原因
ヌックが使われなくなる主な原因は、「目的があいまいすぎる」「生活動線から外れている」ことです。
設計時に「なんとなく欲しいから」と取り入れると、完成後に使い道が定まらず、物置のようになってしまうケースがあります。
また、リビングから離れすぎていたり、視線が気になり落ち着かない位置にあると、自然と足が遠のきます。ヌックは小さな空間だからこそ、日常動線の中に組み込むことが重要です。
そのため、ヌック単体で考えるのではなく、家全体の優先順位の中で本当に必要かどうかを見極めることが大切です。設計士と相談しながら、バランスの取れた配置を検討しましょう。
ヌックはどこに設置するのが一般的?
ヌックは「どこに設けるか」によって、使い勝手や満足度が大きく変わります。注文住宅では間取りの自由度が高い分、設置場所の選択が非常に重要です。ここでは、実際によく採用されている代表的な設置場所と、それぞれの特徴を解説します。
①リビング横に設けるヌック
最も人気が高いのが、リビングの一角に設けるヌックです。家族が自然と集まる場所にあるため、使用頻度が高く、「つくったけれど使わない」という失敗が起こりにくい配置です。
テレビを見ている家族の横で読書をしたり、子どもが遊んだりと、家族の気配を感じながら過ごせる居場所になります。腰壁や天井高の変化で空間を緩やかに区切ることで、リビングの広さを損なわずに、落ち着いた空間をつくることができます。
②階段下スペースを活用したヌック
デッドスペースになりがちな階段下は、ヌックとの相性が非常に良い場所です。天井の高さに制限はありますが、その分「こもり感」が生まれ、ヌックらしい落ち着いた雰囲気を演出できます。
読書スペースや子どもの秘密基地として使われることが多く、空間を有効活用しながら居場所を増やせる点が大きなメリットです。照明やコンセントの配置を工夫することで、実用性も高まります。
③窓際・土間・廊下を活かしたヌック
窓際にベンチを設けたヌックは、自然光を感じながら過ごせる心地よい空間になります。外の景色を楽しめるため、短時間でもリラックスしやすい場所になります。
また、玄関土間の一角や廊下を広めに取り、その一部をヌックとして活用する事例も増えています。限られた面積の中で、動線と居場所を両立させたい場合に有効な選択肢です。
ヌックの広さ・サイズ感の目安
ヌックを計画する際、「どれくらいの広さがあれば十分なのか」は多くの方が悩むポイントです。広すぎると中途半端な部屋になり、狭すぎると使いづらくなってしまいます。ここでは、注文住宅でよく採用されるヌックのサイズ感と、使い方に応じた考え方を解説します。
最低限必要な広さの考え方
一般的に、ヌックとして成立する最低限の広さは約1畳前後が目安です。人が一人座れる、もしくは足を伸ばして腰掛けられる程度のスペースがあれば、ヌックとして十分に機能します。
重要なのは「何畳あるか」よりも、「圧迫感なく過ごせるかどうか」です。天井を低くする場合は床面積を少し広めに、逆に天井が高い場合はコンパクトにするなど、空間のバランスを意識することが大切です。
座る・寝転ぶ・作業する場合の違い
ヌックの使い方によって、必要な広さは変わります。
読書やスマートフォン操作など「座る」用途であれば、ベンチ幅1200mm前後、奥行き600〜700mm程度でも快適に使えます。
一方で、横になってくつろぎたい場合や、子どもがゴロゴロするスペースとして使う場合は、1.5畳程度あると使い勝手が向上します。ノートパソコンを使うなど簡単な作業を想定する場合は、照明やコンセント位置も含めて検討する必要があります。
収納やベンチと兼ねた設計例
ヌックは、ベンチ下を収納にするなど、他の機能と兼ねることでさらに使いやすくなります。季節物や子どものおもちゃ、ブランケットなどを収納できるようにすれば、リビングの散らかり防止にもつながります。
収納と一体化したヌックは、限られた面積を有効に使いたい注文住宅において非常に相性の良い設計です。設計段階で「何をしまうか」まで想定しておくと、完成後の満足度が高まります。
注文住宅でヌックをつくる際のポイント
ヌックは後から簡単に追加できる空間ではないため、設計段階での考え方が非常に重要です。注文住宅だからこそ実現できる自由な設計を活かし、後悔のないヌックをつくるためのポイントを整理します。
生活動線とセットで考える重要性
ヌックは「居心地の良さ」だけでなく、「使われやすさ」が成功の鍵になります。そのため、キッチンからの視線、リビングとの距離、通路との関係など、日常の動線の中に自然に組み込むことが欠かせません。
例えば、家事動線上にヌックを配置すれば、短時間でも気軽に腰掛けられる場所になります。逆に、わざわざ行かないと使えない位置では、徐々に使われなくなる可能性が高まります。
家族構成・将来の使い方を想定する
ヌックは現在の暮らしだけでなく、将来のライフスタイルも見据えて計画することが大切です。小さなお子さまがいる時期は遊び場として使い、成長後は読書や作業スペースとして使うなど、用途が変化しても使い続けられる設計が理想です。
固定用途にしすぎず、シンプルなつくりにしておくことで、ライフステージの変化にも柔軟に対応できます。
設計段階で必ず伝えるべき要望
設計士や工務店にヌックの要望を伝える際は、「ヌックが欲しい」だけでなく、どんな時間を過ごしたいのかを具体的に伝えることが重要です。
読書、子どもの居場所、ちょっとした作業など、使い方を共有することで、サイズや照明、コンセント位置まで最適な提案が受けられます。
曖昧なまま進めると、完成後に「思っていたのと違う」と感じる原因になります。初期段階からしっかり相談することが、満足度の高いヌックづくりにつながります。
よくある質問
ここでは、ヌックについて注文住宅の打ち合わせ時によくいただく質問をまとめました。初めてヌックを検討する方が不安に感じやすいポイントを中心に、実務目線でお答えします。
ヌックは何畳くらい必要ですか?
一般的には1畳前後あれば、ヌックとして十分に機能します。読書やスマートフォン操作など、短時間くつろぐ用途であれば、コンパクトなサイズでも問題ありません。
ただし、横になったり、子どもが複数人で使う場合は、1.5畳程度あると余裕が生まれます。用途に合わせて広さを検討することが大切です。
平屋でもヌックはつくれますか?
はい、平屋でもヌックは十分に取り入れ可能です。リビングの一角や廊下の余白、窓際スペースなどを活用することで、平屋ならではの開放感とヌックの「こもり感」を両立できます。
平屋は動線がシンプルな分、ヌックを日常的に使いやすいというメリットもあります。
ヌックは子どもが成長しても使えますか?
使い方を限定しすぎない設計であれば、成長後も十分に活用できます。幼少期は遊び場として使い、成長後は読書や作業スペースとして使うなど、用途が自然に変化するケースが多いです。
シンプルな造りにしておくことで、ライフステージに応じた使い方が可能になります。
書斎代わりとしてヌックは使えますか?
軽い作業や短時間のパソコン作業であれば、ヌックを書斎代わりに使うことは可能です。ただし、長時間の仕事や集中作業を想定する場合は、個室の書斎の方が適しています。
用途に応じて、照明やコンセントの配置を工夫することで、使い勝手は大きく向上します。
ヌックとスタディコーナーの違いは何ですか?
スタディコーナーは、学習や作業を目的とした実用性重視の空間です。一方、ヌックはくつろぎや居心地を重視した居場所という位置づけになります。
目的の違いを理解した上で選ぶことで、間取りの満足度が高まります。
当社の施工事例では、家族構成やライフスタイルを想定した間取りのつくり方をご覧いただけます。
「この場所、意外といいね」と感じていただけるヒントがきっと見つかるはずです。まずは資料でじっくり検討したい方も、実際の空間を見てみたい方も、家づくりの参考として、どうぞお気軽にご活用ください。



